「意匠」と「デザイン」は同じ意味ですか?

デザインと単なる意匠は、基本的には同じ意味です。しかし、デザインと意匠法上の意匠は、だいぶ意味が違ってきます。

以下では、「意匠」と言った場合には、意匠法上の意匠を指すものとして説明します。

デザインの場合は、その言葉によって表現できる対象の範囲が非常に広いのに対して、意匠の場合は、意匠法による詳細かつ厳格な定義を満たしていなければいけませんので、その範囲は限定されたものになります。

例えば、最近、非常に近代的で個性的な美術館や高層マンションが多数建築されておりますが、その建物の外観形状は、デザインと呼ばれますが、決して意匠と呼ばれることはありません。なぜならば、意匠法第3条第1項において、意匠とは「工業上利用することができる」もの、と定義されているからです。この規定により、美術館や高層マンションという不動産のデザインは、すべて意匠から除外されることになります。

また、紙の上に描いた動物のキャラクター作品も、デザインと言うことはできるのですが、意匠とは言えません。その理由は、意匠法第2条第1項において、意匠とは「物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」と定義されており、物品と一体になったデザインでなければ、意匠としては成り立たず、このために、単なる紙上のキャラクターの絵は、意匠とはなりえないからです。

この物品と結びつくかつかないかは、デザインと意匠を分ける大きなポイントです。このことは、例えば、ある製品メーカーの設計担当者が、新しい製品の構想を計画するときに、よく売れる製品にするにはどのような形状にしたらよいかと考えると思いますが、この形状に対する考えは当然デザインと言う言葉で表現されます。そして、そのデザインの製品が作成されると、そのデザインの製品は、意匠となります。

この考案されたデザインに従って製品が作成されるという過程が、デザインと意匠の分岐点になる、ということからも明らかとなります。

デザインと意匠は、「物品」と「工業上利用可能である」という概念を介在にして、意匠は必ずデザインであるが、デザインは必ずしも意匠ではないという、似ているが違うという複雑な関係にはありますが、この2つの概念をきちんと把握できれば、デザインと意匠の異同を正確に理解できると思います。